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ギタリストインタビュー〜山本哲也
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ーアイリッシュギターには独自の奏法というのはあるのでしょうか。

山本:旋律音楽ということですね。元々伴奏がありません。究極的にはメロディしかないんです。伴奏が付き始めたのは最近です。おそらくアメリカのプロデューサーなどが、商業的にアイリッシュを売り出したいが単旋律だけだと面白くないので伴奏をつけ始めたようです。なので、初期のアイリッシュの伴奏というのはみんな手探りで、JAZZサックスのカリスマJohn Coltraneが出てきた時のピアノの伴奏のような感じでどうやったらいいかわからないんです。今でも伴奏を嫌う奏者はいますね。基本的にメロディを盛り上げる奏者が喜ばれます。ギターを格好良く弾くとメロディを食ってしまいます(笑)。
セッションでギターを弾く時はメロディを生かすという方がいいんです。僕が感じるのは、バンドの頃のリズムの作り方と逆ということです。バンドではベースとドラムが基本的な演奏を作ってその気持ち良いグルーブの中にメロディが乗るんですが、アイリッシュは旋律がリズムを作ります。四分音符の長さがソリスト一人一人違い、メロディの歌い方が違うんです。そこにギターがグルーブを作ってしまうと弾きにくくなってしまいます。いい伴奏は少し遅れるんですが、その遅れが気持ち良いんです。旋律が出たあとにギターが乗ってくる。リードしてしまうのはよくありません。こちらも弾いていて気持ちよくないし、ソリストが弾きにくいんです。
面白いのはレコーディングも、最初はソロから録って最後にギターを録るんです。僕がやっているフィドルとギターのデュオは基本的に二人でライブ録音なんですが、ギターは打楽器よりも後になることもあります。微妙なズレ加減がなんともクセになるんです(笑)。

ーアイリッシュのリズムが独特と感じるのはそのせいかもしれませんね。

山本:メロディが長くなれば間の取り方も長くなるし、メロディが刻めばギターもついていきます。何回も繰り返す中で、それが1回ずつ変わってきます。ギタリストの感覚だと、ギターを前に出したくなりますが、あえてメロディに合わせます。
エレキの時はハードのピックを使ってましたが、今はナイロンのやわからいピックを使ってます。弦に合わせてピックがしなり、弦を弾くのに時間がかかりますが、それが微妙なタメになります。固いピックだと弦をすぐに弾きますが、やわらかくしなるとちょっと時間差ができるのがいいんです。
アイリッシュはギターのセッティングも変わっていて、マグネットピックアップを横にセットする人もいます。普通1~6弦に合わせて縦向きにセットしますが、低音だけの横向きでセットするんです。それだけベースが欲しいんです。1、2弦はいらないんです。それと普通にセットしたピエゾとミックスします。イコライザーでの調整ではダメなんですね。
伴奏の時は1、2弦を弾かない人もいます。伝統的なアイリッシュミュージックを聴くと、1、2弦は弾いてなかったり、軽くしかあたってません。2弦まで弾くとメロディのスピードについていけなくなるというのもあります。
僕は高音弦を使いたいんです。アイリッシュではタブーですね(笑)。逆にメロディに対して違うメロデイをあてるというか、滅茶苦茶勇気がいります。

ーアイリッシュギターは一人一人がそれぞれ奏法、考え方が変わるようですね。

山本:アイリッシュはHow Toがないんですね。それほど複雑なコードチェンジがないので、DADGADでそれなりに弾けるんです。ブルースと似ているかもしれません。
アイリッシュもセミナーが増えてきて、D、G、Aを覚えて刻んでみようとか、入りとしてはいいと思います。掘り下げていくとディーブではありますが、これもジャズやブルースと同じようなものだと思います。海外のプレイヤーが動画でレッスンのようなことをやってるのも便利ですね。

ーアイリッシュデュオだけでなく、ソロのギターアルバムもリリースしています。デュオとソロだと奏法やアプローチがかなりかわるような気がします。

山本:デュオはフィドルがメインなので、そのメロデイをどうやって広げていくかを考えます。ソロはメロディを自分で弾くので奏法的には右手のタッチ(アタック)でリズムやニュアンスを出せるように工夫したアプローチが変わり、これまでやってきたロックやブルースも反映されています。ギターがいいなと思えるよに作っていますね。
アイリッシュはギターがあまり評価されず、脇役みたいなところがあります。フィドルとギターであれば間違いないくフィドルが評価対象で、ギターはサポートなんですね。デュオでライブをやって、ギターいいですね、と言われるのはすごく嬉しいので、ソロではそういったアルバムを作りたいです。
ギターでメロディを弾くことを未だにタブー視している人もいます。ギターではタイム感は出ない、擦弦でないとあのニュアンスは出ないと言われます。ギターでやるなら、まずフィドルをやったり、ダンスをやった方がいいと。でもそんな時間はありません(笑)。アイリッシュよりもギターが好きというのが僕のテーマです。ギターの音が一番好きなので、フィドルやハープをどのようにギターに落としこめるかをやりたいんです。デュオではフィドルが弾くメロディに対して、面白い音楽の世界を作るんです。

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山本哲也 https://www.tetsuya-yamamoto.com

愛知県瀬戸市在住のギタリスト。
幼少の頃からエレキギターを手にし、一時はハードロック・ブルース・ジャズフュージョンに親しむ。2000年頃よりケルト・アイリッシュのギタースタイルに傾倒。
軽快なダンス曲、繊細なエアー(バラード)など独自のスタイルで魅了するやわらかで深みを湛えた美しい音色は近年、日本各地のリスナーのみならず自身の尊敬する海外ギタリスト「アル・ペタウェイ」「イェンズ・コムニック」両氏にも高く評価されている。
2016年9月、Fiddle,Viola奏者 小松大とのDUO、Dai Komatsu & Tetsuya Yamamotoとして1st Album「Years」発表。
2017年7月、全編アコースティックギター一本でIrish,Scottishの曲を収録した1st Solo Album「Inquiring」発表。
2018年9月、Fiddle,Viola奏者 小松大とのDUO、Dai Komatsu & Tetsuya Yamamotoとして2nd Album「Shadows and Silhouettes」発表。
2019年1月、2nd Solo Album 「Shepherd’s Delight」発表。
2020年4月、3rd Solo Album 「INTO THE WORLD」発表。
INTO THE WORLD
INTO THE WORLD

発売日:2020年4月
販売価格:2,500円(税込)

01.Carolan's Cup(Turlough O'Carolan)
02.Paddy Fahey's/The Cliffs Of Moher(Trad)
03.Craggy Pinnacle(Al Petteway)
04.Inner Medium(Kenichi Ito)
05.Out On The Ocean/The Queen Of The Rushes(Trad)
06.Matt People's(Trad)
07.Miss Rowan Davies(Phil Cunningham)
08.Farewell To Whiskey /Bill Malley's Barndance(Trad)
09.Itadori(Takashi Hamada)
10.Carolan's Concerto(Turlough O'Carolan)
11.The Coming Of Spring(Jens Kommnick)-Revisited-
12.Katie Dwyer(Trad)-Epilogue-

販売サイト https://www.tetsuya-yamamoto.com/shop/








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