
ーTripliciti結成のきっかけを教えてください。
Andy McKee(以下、Andy):Trevor(Gordon Hall)とCalum(Graham)の演奏がもともと大好きで、3人で演奏したらどんな音になるんだろう、とワクワクしたのがきっかけです。みんな本当に仲が良いので、一緒にツアーできるのがすごく楽しいんですよ。
Calum Graham(以下、Calum):私たち3人には、友情やユーモアのセンス、音楽に対する哲学、そしてマイケル・ヘッジズへの敬愛など、たくさんの共通点があるんです。それで「一緒に音を出したらどうなるんだろう?」と思い、自然とコラボレーションする流れになりました。
過去にデュオでの共演はあったけれど、トリオでの演奏は初めてで、実際に音を重ねてみると、何か特別な化学反応を感じましたね。
その後、コネチカット州レディングにある自然に囲まれたスタジオ“Maple Hill Farm”で、素晴らしいプロデューサー/エンジニアのCorin Nelsenとレコーディングする機会に恵まれて、そこから『Tripliciti』というアルバムが生まれたんです。
Trevor Gordon Hall(以下、Trevor):私たちはそれぞれ長年ソロ活動をしてきて、いろいろなスタイルで演奏してきました。でもこのトリオは、自然と集まってできた感じですね。もともと気心の知れた友人同士だったこともあって。
3人で初めて同じステージに立ったのは、2019年の「ギター・マスターズ・ツアー」だったと思います。各自がソロで演奏したあと、最後に一緒に曲をセッションする形でした。
私たちはお互いの音楽が大好きだし、一緒に旅をしていても気が合うので、「この3人ならきっと楽しいライブになる」と確信していました。実際、トリオでの演奏では毎晩“魔法”のような瞬間が生まれて、演奏していて本当に楽しいんです。
ギターって、1人でも存在感が強い楽器です。3人も集まれば普通なら音がぶつかって混乱しがちです。でもこのトリオでは、みんなが互いの音に耳を澄ませながら、丁寧に演奏している。誰かが目立とうとして、延々とソロを弾き続けたりするようなことはありません。
3人それぞれが、自分のスペースを守りながらも、相手の音を引き立て合っているんです。まるで、真ん中にある“空間”を大切にしているような感覚。その空間に踏み込まず、互いに余白を尊重するような、そんな自然体の関係性が、このトリオならではだと思います。
ー3人ともソロでは個性的なスタイルを持っていますが、Triplicitiとして目指す音楽、またソロとの違いはどこにありますか?
Andy:Triplicitiとしての最初のアルバムは、各メンバーのソロ曲をアンサンブルで再構築した作品です。すでにファンに馴染みのある楽曲たちに、それぞれが独自のアレンジや音楽的アイデアを加えることで、新たな表情を持たせることができました。
Calum:ソロギターでは1人で全ての要素――メロディ、ハーモニー、リズム、ベース――を表現しなければなりませんが、トリオではそれを分担できるので、音色やアプローチの幅が一気に広がります。
各曲ごとに楽器編成を工夫していて、たとえばバリトンギター、ハイストリングギター、アコースティックギターを使い分けています。
3人で演奏することで、18弦分の音域と音色が重なり、重厚でありながらも繊細な、新鮮なサウンドが生まれるんです。
また、Ebowやスライド、カリンバタールといった特殊な奏法や道具を使うことで、音楽にさらなる色彩や質感が加わっていきます。ソロではできなかった表現が、トリオだと実現できる。そういう意味で、とても創造的な体験ですね。
Trevor:ソロでは、1本のギターで“音楽のすべて”を語ろうとしますが、トリオになると曲の中に余白が生まれる。その余白に他のメンバーの音が加わって、より豊かな世界が広がります。
ソロ曲をそのまま3人で演奏すると破綻してしまう場合もありますが、お互いが丁寧に耳を傾け合うことで、曲の持つ感情やメロディがむしろ際立ってくるんです。
私たちが目指しているのは、ギターの技巧を見せつけるような派手な演奏ではなくて、聴く人を音楽の“旅”に連れていくような体験です。
最も大切にしているのは、「曲そのもの」「メロディ」「感情の深み」。トリオという形態が、それをさらに引き立ててくれていると感じています。
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