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ギタリストインタビュー〜伊藤賢一
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ー曲を作るのに影響を受けたギタリスト、ミュージシャンなどいたのでしょうか。

伊藤:自分の場合はやはり中心にジョン・レンボーンがいました。彼はソロギターだけでなく、いろいろなアンサンブルもやっていて、どちらかといえばそういった方向に憧れていた気がします。また、彼の音楽をガイドにしてロビン・ウィリアムスンやデヴィッド・マンロウの素晴らしいアルバムに出会い、むしろどんどんギター音楽から遠くなっていく感じで・・・。他のギタリストがどうしているかというのはあまり気にしていませんでした。マイケル・ヘッジスは好きで聴いてましたが、日本で代表的な中川イサトさんや岡崎倫典さんの作品を聴くようになったのは演奏活動を初めてしばらくしてからです。専門学校時代もギター音楽よりバッハやヴィヴァルディ、シベリウスやブルックナーを沢山聴いていました。いろいろなパートの動きがどうなっているのかを知るのが面白かった。なのでギター1本で曲を作るというのはかなり特殊だなという思いが今でもあります。とはいえ、曲を作り始めると自分らしさが自然に出てくるから面白いですね。自分の好きなメロディの伸び方とかコード進行とか和声の使い方とか、自分の好きな世界はハッキリとあるので、それをどうやってギターに置き換えるかということをしています。
個人的にはオープンチューニングはあまり好きではありません。レギュラーチューニングの良さは、いろいろな調で遊べるところ。豊かな調とデッドな調が混在する、そんなギターの不完全さを感じているのが好きなんですねきっと。うまく使えればどこにでもいけるチューニングだと思います。もちろんオープンチューニングでも達人が扱えば凄い音楽が生まれますが、たまに「チューニングの特徴そのまま」という曲に出会うとがっかりしてしまいます。自分はレギュラーとドロップDしか使いません。その点もクラシックギターの影響かもしれません。

伊藤賢一ーソロギターといえばオープンチューニングというイメージもありますが、最近はレギュラーのみというギタリストも増えてきてますね。

伊藤:増えてますよね。レギュラーチューニングだと開放弦の処理をしないと気持ちが悪い響きになる場合も多いですが、逆に自分が考えたもの、構築したものがそのまま出やすい。オープンチューニングでも突き詰めれば全く同じですけど、「オープンな響きのみ」で出来てしまう場合もあります。そういった曲ばかり弾いていると、どんどん演奏力が狭くなっていく。そういう方向は嫌だなと思います。例えば小川倫生さんはオープンチューニングを駆使しますが、消音がすごくマメで、不自然に飽和したような響きを残さないのです。チューニングがどうであれ、まず自分の音楽、自分の考えや構築が最初にある。その順番が崩れないのが凄いなと思いますね。
また、これは僕自身の戒めですが、ギター1本でやる音楽はついつい音を埋めたがってしまう。オープンチューニングだとそれこそ音を埋めやすい。でも本当に大事なのはそこからどのように不要な音を間引いていくかという作業だと思います。それはオープンだろうとレギュラーだろうと変わらない。ジョン・レンボーンを聴いていてすごいと思うのはまさにそこで、隠れている旋律、弾いてないけれど流れている旋律を感じさせる。物理的には弾けないのですが、それをどう間引いて聴かせるかというところに目が行っているのがすごいと思います。僕自身そういう曲をこれから書いていけたらと思っています。



大屋さんのギターは本当に面白い。音の出し入れができるというか。すごく演奏しがいがありますね

ー今アルバムは5枚出ていますが、平均すると2年に1枚くらいのペースです。これは結構ハイペースですね。

伊藤:実は2枚目と3枚目の間が4年くらい空いています。その時に左指がマヒする故障をしてしまいました。ライブは続けてましたが、弾けない曲は増えてくるし、新しい曲もなかなか出来なくて相当しんどい時期でしたね。今考えるとこの時故障したことは、先程言ったような「音を効果的に間引く」という事を考えるきっかけになったのかも知れません。それにしても2枚目までは随分パラパラ指が動いてたと思います。逆に3枚目からは指が動かない分しっかり音楽をしていこうと意識しました。楽器も変わりました。2枚目までは中島馨さんのギターをメインにしてましたが、3枚目からは大屋建さんのギターです。大屋ギターとの出会いは自分にとってすごく大きかったですね。最初に所有した大屋ギターは楽器店で見つけまして、今メインで使用している2本目は直接オーダーして作っていただきました。

ー大屋さんのギターはどのようなところが良いでしょうか。

伊藤:まず音程がしっかり合うということが衝撃でした。ギターというのは宿命的に音程が合わないものだと思ってましたから。低音弦のハイフレットはどうしても甘くなるものなんだと。大屋さんのギターはそのストレスが無かったんですよね。素直に音が出てくれて、詰まったところがないのに驚きました。そして音の芯がすごく強いです。きちんと弾かないときちんとした音楽にならないと言うか。逆に言えば「音楽をしようよ」と常に訴えかけてくる楽器なんですよね。その刺激を受けて、自分も応えようと頑張る。自分を引き上げてくれる楽器だと思います。

ーいわゆるクラシックギターの銘器のような話ですね。アコースティックギターではあまり聞かない内容の気がします。

伊藤:そうですね。僕はクラシックギターはハウザー2世(1960年)を使ってますが、ハウザーはまさしくそういう楽器です。大屋さんのギターに会うまでは鉄弦というのは多少アバウトでも楽に鳴るものだと思っていました。大屋さんの楽器を弾いて、ハウザーのような和音の分離感が出るところにも驚きました。鉄弦の場合は豊かな倍音が溶け合うのが気持ちいいとされてる面がありますが、こういう音とは真逆の世界です。なので、ぱっと聴いた感じはとても地味な響きかも知れません。温かみも備えながら、どちらかというと透明な音色なので、色付けは自分でやらないといけない。そこが面白い。大屋さんも僕の弾き方を理解して作ってくださったので、自分にとっては本当にジャストな楽器ですね。

ー大屋さんのギターの材質はなんでしょうか。

伊藤:トップがヨーロピアンスプルース、サイドバックはインディアンローズウッド、ブリッジがハカランダ、指板がエボニー、ネックがマホガニーです。僕のギターはこういう構成ですが、大屋さんはいろいろな材質で作っておられます。

ー大屋さんのギターは全体的にこういった音の作り方なんでしょうか。

伊藤:僕が最初に入手した大屋ギターは初期の頃のギターですが、やはり透明感があって和音の分離が良かった。音程も正確でしたね。クラシックギターの超名器でも、音はものすごく良くても音程が合わないものは多いですよね。やはり音程が合うと見えてくる世界も確かにあって、音がより素直になります。僕のギターは万人に弾きやすい(音の出やすい)楽器ではないですが、僕が弾いた時には素晴らしい音になる。それがいいんですよね。今までいろいろなギターを使ってきましたが、自分にとっては大屋さんのギターがベストマッチだと思います。

ークラシックギターのヘルマン・ハウザー2世はいつ頃から使用しているのでしょうか。

伊藤:2009年からです。それまではアントニオ・マリン・モンテロというクラシックギターを使っていました(現在も愛用してます)。マリンはバッハもポピュラーもいろいろな事に対応できる柔軟な楽器です。マリンで特に不足は感じて無かったのですが、このハウザーを弾いた瞬間に虜になってしまいましたね。大屋ギターとハウザーをメインにするようになってからは、できるだけ生に近い状態でライブをやっていきたいと思うようになりました。ライブハウスでしたらマイクを使いますが、今後は100名以内の小さいホールなど完全に生音でできるところでどんどんやっていきたいと思っています。ソロギター界とは真逆の方向かもしれないですね(笑)。
でも三好さんのピックアップ(M-ファクトリー)は大好きなんですよ。M-ファクトリーのコンタクト・マイクは楽器の音の特徴をそのまま出してくれる、知る限り唯一のピックアップです。僕はマグネットピックアップの音にどうしても馴染めないので、デュアルシステムは使いません。生であろうとピックアップであろうと、ギターは芯の音を出してなんぼと思います。例えば芯の無い弱いタッチの演奏でもピックアップを使うと音量だけ増幅する事もできてしまう。これが怖い。そうならないためにも、常に自分の耳は鍛えようと思っています。ギターの音というのはどういうものか、表面板を振動させるにはどうすればいいのか、そういったことを突き詰めていきたいです。
最近思うのですが、「目の前に誰かが一人いて、自分がギターを弾く」それだけの関係の中で喜んでもらえるようになりたい。ライブハウスでマイクやピックアップを使っていても、ホールで沢山のお客様の前で弾いていても、いつでもそこに帰れるようにしたいと思っています。
専門学校でよく言われたのが「表板を振動させろ」ということです。最初はどういうことかよくわからなかったのですが、ギターというのは弦の振動がサドルからブリッジ、ブリッジから表面板に伝わる構造です。そこでうまい振動を与えてあげれば、楽器自体をドライブできる。勿論どんな振動を与えても音は出ますが、音源に振動を与える右手タッチに内容が無いと、素っ気ないつまらない音になってしまう。そういったことを叩き込まれました。そば鳴りよりも音の遠達性というものを意識するということです。鉄弦の楽器でこういったニュアンスにリアルに応えてくれる楽器は、やはり大屋さんの楽器なんですね。うん、大屋さんのギターは本当に面白い。音の出し入れができるというか。すごく演奏しがいがありますね。
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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得
2001年1stアルバム「String Man」発表
2002年2ndアルバム「Slow」発表
2007年3rdアルバム「海流」発表
2010年4thアルバム「かざぐるま」発表
2012年5thアルバム「Tree of Life」発表
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」発表
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
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発売時期:2016年9月22日
販売価格:3000円


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