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ギタリストインタビュー〜伊藤賢一
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ーこのアルバムではどのようなギターを使用されていますか。

伊藤賢一 伊藤:「Inner Medium」「Jardin Secret」「Sweet Bonnie Dickinson」が1960年製のヘルマン・ハウザー2世です。
「カロスの朝」が1952年製のマーチンD-18です。この楽器は今はギタリスト浜田隆史さんがメインギターとして使用しています。
「囚われの月」はM.J.Franksす。2016年製の新品の楽器で、トップがアディロンダックスプルース、サイド、バックがキューバンマホガニーです。基本的にD-18と同じコンセプトの楽器で、やはり自分はマーチン系ではD-18が一番好きなんですよね。セッションにも向いているので、今後いろいろなところで使うでしょう。その他の曲はメインギターであるKen OyaのモデルJ(2008年)です。

ーレコーディングについてお聞きしますが、今回マイクは1本でしたか。

伊藤:いいえ、2本使用しています。2本の方がギターの立体感を録りきれると思います。
レコーディングで一番難しく、醍醐味でもあるのが、いわゆる「音決め」です。マイクの位置関係を色々変えて、録り音を探っていく作業ですね。この作業が毎回大変で、DPA 4006Aくらい質の高いマイクだと、2本の間隔が数ミリ狭まっただけでも激変します。この2本の角度を上げたり下げたり、開いたり閉じたりして全体の距離と合わせて詰めていく。その結果、このブースの広さで私のギターであれば、このくらいの距離、この間隔だというのが、だいたい割り出すことができました。
ここに行くまで時間がかかり、テストを繰り返しましたね。エンジニアの林慶文さんと大屋建さんと3人でディスカッションしながら決めていきました。僕にとって幸運だったのは、優れたエンジニアの林さんと出会えたことと、ギターの音を深く知っている大屋さんと一緒に作業ができたということです。大屋さんは鋭い感覚をお持ちなだけでなく、それを言葉にできる方なので、具体的な方策を相談する事ができるのです。3者が別の立場から意見を出して実に建設的なセッションとなりました。耳の良い人間が3人そろったのは幸せでしたね。
小川倫生さんもレコーディングは音決めが大変だと話してましたね。小川さんは全て一人でやっているからこそ追い込める世界があるし、今回の私たちのような形態も毎回新しい発見があるし、それぞれ別の良さがあると思います。 レコーディングは音決めが全てと言ってもいいかもしれません。たとえ良いマイクがあっても、それだけでは良いものにはなりにくい。奥が深いですね。

ーギターが変わると位置も変わるのでしょうか。

伊藤:変わりますね。レコーディングを経験すると、自分のギターの音を嫌でもシビアに聴くようになります。各楽器どのような特徴があるかわかるし、自分が好きなギターの傾向も掴めてきます。一般的にギターといえば甘い音がするとか、ザックリした音とか、「音色」という方向に行きがちですが、僕の場合は音色よりは「鳴り方」なんです。全体的な鳴り方をするのか、ズドンと単音が直線的な鳴り方なのかの違いというか。僕は全体的に放射している鳴り方が好きです。なので自然とそういうギターを持つようになりますね。
ある日のマイクテストの際にDPAのマイク2本の間に大きめのノイマン87を置いて同じ音源を録るということをしてみました。この時、真ん中にノイマンがある時とDPAだけの時で音がものすごく変わりましたね。間にノイマンがあるとDPAで録れる空間を侵害してる状態になるというか(笑)「間に何かがいる音」になるんですね。それくらい録音というのは繊細なものです。良い機材を使うだけでなく、追い込む作業がないといけませんし、またそこが最大の楽しみでもあります。アマチュアの方でも、機材を買ったら時間をかけて音決めを楽しんでほしいですね。
でもこれはラインを使ったライブ現場でも全く同じだと思いますよ。ラインでも最初からリヴァーブありきではなく、リヴァーブの無いラインの素の音で良いバランスを追い込み、そこから会場にあったリヴァーブを足していけばきっと良い音になります。初めての会場でも、ラインの素の音をまず出してみた方が相性などもわかりますし。音決めをしてから他の技術的な事に入っていく。レコーディングもライブもそうした意味ではやることは同じだと思います。
あと、私たちは録音でコンプレッサーを使っていません。3枚目の「海流」では林さんと組んで初めてでしたし、割と一般的な作り方を踏襲したのでコンプも使ってました。林さんとセッションを重ねるにつれ、だんだんナチュラルな嗜好に転換していきましたね。
コンプはとても便利なテクニックで、各種バラつきを押さえ込む効果があります。例えば一番顕著なのは音程ですね。ギターは宿命的に音程が完全には合わないものですが、コンプレッサーはそれすらもある程度馴らしてしまうんです。あとは曲想のつけ方でも、きれいにクレッシェンドしきれてないところもデコボコが目立たなくなったりして、うまく使いこなせば素晴らしい効果を発揮するものだと思います。音もパンッと立ったものになるし。でも色々試してみて僕は耳とプレイで詰めていく方が良いものができると結論付けたので、コンプは封印してます。もちろんマスタリングの時のトータルなリミッターはかけなければいけないですけどね。それでもリミッターのポイントにかかってない曲は、録ったままの音という事です。

ーアルバムの聴きどころはどういったところでしょうか。

伊藤:まずアルバムを通して聴いてみほしいですね。ハイエンドオーディオでもイヤホンでもカーオディオでも、どんなシチュエーションで聴いても満足いただけると思います。曲順にもこだわりぬいたので、各曲の繋がりがとても良く呼応しているし、メインの曲があるようで、そのメイン曲は人によって違ってくるような楽しさがあります。今まで数多くのギターアルバムを聴いてきましたが、このアルバムが一番良い音だと思ってますね。


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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com

1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリース。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
Another Frame
Another Frame
発売時期:2017年5月15日
販売価格:2,500円(税込)

1.Inner Medium
2.Carolan’s Ramble to Cashel (T.O'Carolan)
3.ハックルベリーの舟出
4.夜明けの街
5.カロスの朝
6.囚われの月
7.ソリチュード(Duo)
8.Jardin Secret(Jean Marie Raymond)
9.Sweet Bonnie Dickinson(Jean Marie Raymond)
10.おかえり
11.道のりのどこかで

販売サイト http://kenichi-ito.com/cn13/index.html











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