
第78回 この一枚を聴く ニール・ヤング「今宵その夜」
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
アルバム紹介、今回はニール・ヤングの個人的ベストな1枚。50周年アニバーサリー・リマスター盤を紹介します。
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高校時代から数えて、いったい何百回このアルバムを聴いただろうか。
アルバム「今宵その夜」
リリースは1975年だが、録音は実は1973年8~9月。
ニール・ヤングの手兵というべきバンド「クレイジー・ホース」のギタリスト、ダニー・ウィッテンが1972年11月に、クレイジー・ホースのローディー、ブルース・ベリーが1973年7月に、ドラッグの過剰摂取によって命を落とす。この苦悩を表した「今宵その夜」という曲を中心に泥酔状態でセッションを重ねたレコーディングをまとめたのがこのアルバムである。
完成はしたもののあまりに重い内容のためお蔵入りしていたが、1975年当時製作していた牧歌的風合いのアルバム「ホームグロウン」が完成したタイミングで、「今宵その夜」を今一度聴き返し、そのストレートでダークな演奏に魅力を感じリリースするといった込み入った経緯を持つ。当然今度は「ホームグロウン」がお蔵入りとなるのだが・・・
このアルバムは名曲が多い。というか、全てが名曲。
アルバム全体がダークな空気に覆われているので1曲単位に強烈な印象は感じにくいが、まぎれもなくこれは「ソングブック」だ。
「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」よりも「ハーヴェスト」よりも、アルバムの中で名曲の打率は高い。
私が特に好きなのが「Albuquerque」「World on a String」「Mellow My Mind」。
アルバムのサウンドとしてはエレキギターとピアノのバッキングが実に効いている。そこに天空を裂くようなペダル・スティール。
そのアンサンブルに決して計算高さは感じないが、ニール・ヤングの元来の「耳の良さ」が生んだナチュラルな一期一会がそこにあったのだと思う。曲間が短いのもこのアルバムの特徴で、これが奏効するのも彼のセンスによるものだと感じる。
1975年のリリースから50年目を迎えたリマスターは、一聴して楽器の音が密になり迫力を増すが、安易な「広がり」「クリアさ」は皆無。声と楽器(特にドラムス)の表情がえぐられるからこそアンサンブルに深みが増す。このアルバムの暗部を愛するものとして、歓迎されるべきリマスターと言える。

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伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入
学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリー
ス。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリ
ース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
2020年Indigo Noteの2ndアルバム「Long Way」リリース。
2021年7thアルバム「Little Letter」リリース。
2023年ピアノ&パーカッション奏者AkiとのデュオLuna y Alas結成。
2024年Indigo Noteの3rdアルバム「Lively Garden」リリース。
2025年Aki作曲のギター曲「The Pearl」リリース。
ライブ本数は累計1500を超え、現在も常に日本全国で演奏活動を展開中。

【2025年10月1日】
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