
ギター路地裏 第82回
アコースティック・ギター・ワールド読者の皆さまこんにちは!ギタリストの伊藤賢一です。
私は自他共に認めるビートルズ大好き人間なので、いろんな角度からビートルズについて語ってみようと思います。
初回は「ラバー・ソウル」と「リボルバー」比較論です。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
ビートルズ中期の名作「ラバー・ソウル」と「リボルバー」。
「どちらが好き?」
という話題で盛り上がる2枚ですね。
結論からいうと、私は「ラバー・ソウル」が好きです。
「ラバー・ソウル」の美点であり、大きな特徴は
楽器の色彩感
だと思います。
「リボルバー」ではテープの逆回転やSE、さらには管楽器弦楽器が積極導入され、サウンド面での充実や進化が目覚ましいとされています。
しかし私の見方は別にあって、こうした革新的な技術やアイデアを一旦取り去ったメンバー自身の演奏は、テクニカルな直進性が増した一方、色彩的にはかなり単色に感じるのです。
具体的に述べると、こうした革新的実験の陰で、ビートルズのサウンドの要のひとつである
「楽器の響き」
が若干脇に追いやられるように感じます。
特にアコースティック・ギターの出番が減った事で、バンドサウンドの立体感が、サウンド全体の革新性と反比例するかのように薄まった。
さらに、それまでのアルバムには必ず影響が見られたカントリー&ウエスタン色は、「リボルバー」以降はほぼ排除されたと言って良いと思います。
私もビートルズの”カントリー&ウエスタン色”が最高!という感想は持っていませんが「ギターを鳴らす」世界観がこのジャンルにはあることは確かです。
言い換えると「楽器の音」を生かす瞬間が、「リボルバー」では少ない。それが私の不満の一つでもあります。
特にB面は、アコースティック・ギターの音は皆無と言って良いでしょう。非常に楽曲的内容の濃いB面で音色の世界がせばまっているのは、個人的に少し勿体無い気がします。もちろんその分フレンチホルンやブラスやSEで別の色をもたらしてい
る、という意見もその通りなのですが、私は何よりメンバー自身の演奏が好きなのです。
繰り返しますが、その分録音技術の先鋭化や実験要素の導入で地平を開いている点で「リボルバー」が重要な意義を持つアルバムなのは疑う余地がありません。
ギターサウンド及び演奏
「リボルバー」での3人のエレキギターはソリッドな鋭い風合いが特徴です。
対する「ラバー・ソウル」はアコースティック・ギターが全体の土台として機能している効果により、サウンドの奥行きがあるように感じます。
どちらのアルバムもエレキギターはサウンドの要ですが、録音としては「ラバー・ソウル」の方が”楽器の特徴”がよく録れている気がします。
切れ味のあるストラトのサウンド、久々登場のグレッチのカントリー・ジェントル
マン、リッケンバッカーの12弦など、印象的な「楽器の音」が楽しい。
「リボルバー」ではなんと言ってもポールの弾くエクスワイア、更にはギブソンSGのサウンドが印象的ですが、全体を覆うサウンド・コンセプトは幻想的かつアシッドな響きを持ち、「ラバー・ソウル」でのギターバンド然とした佇まいは薄まっています。つまり「リボルバー」はどんな楽器を使ってもそこまで違いが出ないようなアルバムコンセプトなのだと思います。
そして、アコースティックギターを楽しむという点に関しては、どうしても「ラバー・ソウル」を採ることになります。「Norwegian Wood」イントロの深み、「Michelle」でのフィンガースタイルの美しさ、どちらもリボルバーには見られない
美点です。
ビートルズのアコースティックギターの名作となると、この「ラバー・ソウル」と「ホワイト・アルバム」が双璧ということになるでしょう。
ベースサウンド及び演奏
「リボルバー」期の特筆点のひとつに「エッジの効いたベース・サウンド」が挙げられます。なのでリッケンバッカー使用も「リボルバー」から始まったとしばしば勘違いされますが、実は「ラバー・ソウル」から使用されています。
リッケンバッカー使用により、ポールのプレイは明らかに変わってきています。
「ラバー・ソウル」からは「The Word」でのテクニカルなパッセージ、「Nowhereman」でのアウフタクトを用いた自由なフレージング、低音部の進化がアンサンブルの進化に直結しています。
「リボルバー」からは「Taxman」での高速リフの多用。「Got to Get You into MyLife」でのドローン効果とクリシェとを併用したフレージングなどさらにテクニカルな世界へ進みますが、「ラバー・ソウルからリボルバー」への変化は「それ以前
からラバーソウル」への変化に比べると緩やかと言えると思います。
まとめ
近年の「リボルバー」への評価が益々上がる一方、「ラバー・ソウル」の魅力とは何かを論じる記事や映像が少なく思い、色々と述べてみました。
「リボルバー」からエンジニアがジェフ・エメリックに変わり、制作時間も確保され、思い描いたサウンドを実現できるフェーズに入り以後「ゾーン状態」となるビートルズですが、その1歩目となった大傑作「リボルバー」の価値は、やはり計り知れないものがあります。
しかし、言い換えると「ラバー・ソウル」での制作方法はビートルマニア期の過酷なスケジュールに踏襲されており、締切に迫られる中で才能の萌芽が信じられないスピードで進み、アルバムとして結実した「ラバー・ソウル」に、ビートルズの怪物性をより感じるのです。

伊藤賢一雑感コラム ギター路地裏 TOP へ

伊藤賢一 http://kenichi-ito.com
1975年東京都新宿区生まれ 1994年 ギター専門学校(財)国際新堀芸術学院入
学。
1998年(財)国際新堀芸術学院卒業。以後ソロ活動へ。
2001年フィンガーピッッキングデイ出場、チャレンジ賞獲得。
2001年1stアルバム「String Man」リリース。
2002年2ndアルバム「Slow」リリース。
2007年3rdアルバム「海流」リリース。
2010年4thアルバム「かざぐるま」リリース。
2012年5thアルバム「Tree of Life」リリース。
2013年ライブアルバム「リラ冷え街から」リリース。
2015年初のギターデュオアルバム『LAST TRAP/小川倫生&伊藤賢一』をリリー
ス。
2016年田野崎文(Vo)三好紅( Viora)とのトリオtri tonicaのアルバム「alba」リリ
ース。
2017年6thアルバム「Another Frame」リリース。
2018年三好紅(Viora)とのデュオIndigo Noteのアルバム「Can Sing」リリース。
2020年Indigo Noteの2ndアルバム「Long Way」リリース。
2021年7thアルバム「Little Letter」リリース。
2023年ピアノ&パーカッション奏者AkiとのデュオLuna y Alas結成。
2024年Indigo Noteの3rdアルバム「Lively Garden」リリース。
2025年Aki作曲のギター曲「The Pearl」リリース。
ライブ本数は累計1500を超え、現在も常に日本全国で演奏活動を展開中。

【2026/4/4】 |